シンプルな情熱

盛秋。
雨降りが続いた10月のつかの間の晴れの日、今頃森ではヒヨドリジョウゴが実を赤くさせている。
草木のなかで一番好きだ。
そう言うと
あみさんが穫ってきてくれた。
珈琲を淹れるカウンターからちょうどその姿が見える。
枝ぶりが美しい。
躍動感もあり、見ていて飽きない。
森での姿を一目だけでも見ようと、たまらず夕方森へ向かった。
仕事中には行くことができなかった範囲まで足を伸ばすと
そこかしこに愛らしい実がたくさんついている。
ムラサキシキブにヨツドメ、サンキライ、ヒヨドリジョウゴ。
マユミも。
日が暮れるまで時間を忘れて歩いた。
そして、
「この実を森で見つけることができたら、もうお花に関しては何も言わない」
なんて、先輩風吹かせて言った舌の根の乾かぬうちに
いくつもの実を抱えてお店にはねるように帰ってしまった。
空気なんて読んでいたら、好きなことできないよ。
好きなことしよう。
「ものを書く行為は、まさにこれ、性行為のシーンから受けるこの感じ、この不安とこの驚愕、つまり、道徳的判断が一時的に宙吊りになるようなひとつの状態へむかうべきなのだろうと」(アニー・エルノー「シンプルな情熱」)